内科医花芝の健康小話

ちょっと健康に役立つことをお話します。

貧血について解説します。鉄分以外にも気を付けたいこと。

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健診をしていると、意外と多いのが貧血の患者さまです。

風邪などで体調を崩して病院で血液検査を受けた際にも、偶然貧血が見つかることもありますね。

貧血って言われたけど、全然症状もないし様子を見ていますね。

貧血には鉄分が良いと聞いたので、とにかく鉄分をとります!

 

症状のない貧血も、放置していると大変なことになることがあります。

また、鉄不足以外にも貧血の原因は色々とあるのです。

今回はそんな貧血について、原因から対処法まで解説していきます。

「貧血」とは何か

基準値

Hb 男性 13.1-16.3 g/dL
   女性 12.1-14.5 g/dL

貧血とは、血液中の赤血球の数やヘモグロビン(Hb)の量が低下した状態のことです。

ヘモグロビンとは赤血球にある赤い色素のことで、酸素を運搬する能力があります。

つまり、貧血となると身体中に酸素を上手く運ぶことが出来なくなります。

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こうなるとすぐに倒れてしまいそうですが、人間の身体は頑張り屋です。

何とか他の部分で、この酸素の運搬力不足を補おうとします。

全身に血液を巡らせているのは心臓の働きです。

心臓がポンプ、ヘモグロビンがその勢いで運ばれていく台車のようなイメージです。

台車が少なくなれば、ポンプがその分フル稼働して回転率を高めます。

貧血の所為で脈が速くなったり、動悸がしたりするのはこの為です。

要するに、貧血は放置すると気づかぬうちに心臓へ負担をかけていることになります。

 

なお、今回は詳しく述べませんが、逆にヘモグロビンが多すぎるのも問題となります。

貧血の原因

貧血の原因はさまざまですが、主要なものを以下に挙げてみます。

「材料」不足(主として鉄やビタミン)

材料が不足していると、十分な量の赤血球を作ることが出来ません。

赤血球の主たる成分であるヘモグロビンは、鉄が材料となります。

これが不足すると、いわゆる鉄欠乏性貧血となります。

また、ビタミン(有名なものはビタミンB12や葉酸)も、DNA合成の際に必要で、不足すると完全な赤血球が作れません。

これは巨赤芽球性貧血や、大量飲酒者に認められる貧血です。

出血による喪失

出血が起これば、当然赤血球が喪失されるので貧血となります。

急激な出血なら分かりやすいのですが、じわじわとした出血でも継続すれば貧血となります。

また、女性で月経のある方も定期的に血液を失っていることになります。

赤血球が失われるというのは、鉄分が失われるということでもあります。

純粋な喪失による貧血にもなりますし、継続的な出血は鉄欠乏性貧血も引き起こします。

赤血球がうまく作れない場合

血液は骨髄という場所で作られますが、この骨髄の異常で赤血球がうまく作られないことがあります。

ただ、これは比較的稀な病態です。

 

もうひとつ、時折見かけるのが、腎性貧血という貧血です。

腎臓は尿を作る臓器という認識の方が多いと思いますが、実は「エリスロポエチン」というホルモンも作っています。

このエリスロポエチンが骨髄へ信号を送って、赤血球が作られるのです。

つまり、腎臓という臓器は、赤血球を作る信号を送るという重要な役割も持っていたのです。

そして腎臓の機能が低下すると、このエリスロポエチンが作られる量も低下します。

これにより引き起こされるのが腎性貧血です。

臓器の機能は加齢に伴い低下していく傾向にあります。

特に高齢の方で、この腎性貧血の方を見かけることがあります。

貧血の種類は大きくわけて三つ

原因別に貧血についてお話しましたが、貧血には血球の大きさによる分類もあります。

血球の大きさとは数字で確認できるもので、これを参考に原因も類推できるのです。

皆さんの血液検査の結果でも、確認できる場合があります。

MCVという項目があるでしょうか。

ここに注目すれば、以下の分類を確認することが出来ます。

小球性低色素性貧血

MCV≦80

小球性、つまり血球が小さいということです。

これは多くの場合が、鉄が足りない鉄欠乏性貧血です。

主たる材料が足りないので小さくしか作れなかった、とイメージしてください。

正球性正色素性貧血

80<MCV<100

これは血球の大きさが正常な場合です。

腎性貧血や、稀な血液疾患などが当てはまります。

また、急な出血後の貧血も正球性になる場合があります。

ただし時間が経過するにつれて鉄不足となりますので、小球性へ移行していきます。

大球性正色素性貧血

 MCV≧100

血球が正常よりも大きい場合です。

主にビタミン(特にビタミンB12や葉酸)などが不足した場合に起こります。

血球が大きいと聞くとなんだか通常よりも酸素を運んでくれそうで、良いことなのではと感じる方もいるかもしれません。

しかし、きちんと作れていない赤血球では十分な働きは期待できません。

ビタミン不足でDNAが上手く合成できず、ヘモグロビンを上手く包み込めなかった赤血球、というイメージです。

 

ビタミンB12欠乏は主に吸収不全によっておこります。

代表的なのが「悪性貧血」です。

これは胃粘膜の萎縮によって、ビタミンB12が吸収できなくなる病態です。

それ以外に、胃の全摘出をおこなった方なども吸収不全に陥ります。

葉酸欠乏の原因は色々とありますが、大酒家の方などがなりやすいです。

極端な偏食や薬剤の影響でも起こる場合があります。

貧血の症状

貧血の症状としては、顔色が悪い、体がだるい、疲れやすい、動悸がする、めまいがする、息切れがする、などが挙げられます。
また、ゆっくりとした経過の場合、無症状のことも多いです。

貧血と指摘されたら大切な二つのこと

貧血を指摘された場合は、病院を受診して診察を受けましょう。

大切なのは、「原因精査」と「治療」の両方をおこなうことです。

貧血の原因精査

月経のある女性の小球性貧血、大酒家の方の大球性貧血、などは原因が分かりやすいです。

しかし、明らかな原因が思い当たらない場合や、急激な貧血が進行している場合は、注意が必要です。

特に原因不明の場合、出血の有無の精査は必要です。

原因として多いのは、上部消化管からの出血、大腸からの出血、婦人科疾患です。

また、場合によっては悪性疾患がみつかることもあります。

必ず病院を受診して、医師に相談してください。

貧血の治療

治療は貧血の原因によって異なりますが、必ず受けましょう。

症状が無いから貧血でも大丈夫、と言うことにはなりません。

人間の身体はよくできているもので、次第に貧血状態に慣れていきます。

ゆっくりと進行した貧血は、自覚症状に乏しい場合もあります。

ただし、無自覚でも確実に臓器に負担はかかっています。

また、その状態で更に何か起こった時、風邪をひいたり、体調不良になったりした場合、致命的な事態になりかねません。

私が診察した患者さまの中で、最も重篤だったのはHb4g/dlの方でした。

胃潰瘍に伴う吐血で入院されていましたが、「少ししんどいかなぁ?」くらいの自覚症状だったのです。

しかし、Hb4g/dlといえば、基準値の1/3です。

単純な比較は出来ないものの、普通の人間が一気に血液を2/3も失ったら、かなり重篤なことになる筈です。

それでもゆっくりならば耐えてしまうのが人間の身体です。

おそらく、この方もじわじわと貧血を進行させていったのでしょう…。

そして吐血という切っ掛けで、漸く異変に気付いたことになります。

ただし、高齢の方や活動量の低下した方の場合、基準値レベルのHbは必要が無いこともあります。

高齢者では貧血の定義を一律Hb 11g/dlとするのが実際的ともいわれていますが、その方の活動量や持病なども考慮して判断していくのが良いのだと思います。

まとめ

 今回は貧血について、全般的な解説をさせていただきました。

貧血は繰り返し指摘される方も多く、慣れてしまいやすい異常です。

しかし、可能な限り早めに対処していくことが、重篤な状態となるのを予防することに繋がります。

自己判断せず、病院で医師の判断を仰ぎ、対応していきましょう。

貧血は甘く見ずに、しっかりと精査・治療しましょうね。