内科医花芝の健康小話

ちょっと健康に役立つことをお話します。

とっても怖いピロリ菌。正しく知って、胃がん予防。

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皆さん、「ピロリ菌」を御存じでしょうか。

何だか可愛らしい名前ですが、実はとても厄介な困った奴です。

ピロリ菌は人の胃粘膜に住み着いて、様々な病気の原因となるのです。

胃がんに関係すると聞いたことがありますが、他の病気にもなるのですか?

私はピロリ菌陽性と言われましたが、いつの間に感染したのでしょう…。

 今日は「ピロリ菌」第一弾として、感染経路や関連する病気などを解説します。

まずはピロリ菌について正しい知識を身に付けましょう。

 ヘリコバクター・ピロリ菌とは

ピロリ菌は、正式にはヘリコバクター・ピロリ菌と言います。

らせん状桿菌、といってこんな形をしています。

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人の胃粘膜に感染・定着するのが特徴です。

胃の中には胃酸という最強のバリアがあります。

だから、通常では微生物が長時間生存できません。

しかしピロリ菌にはウレアーゼを産生し、胃酸を中和する能力があります。

こうして長期間、胃粘膜に住み着いてしまうのがピロリ菌なのです。

 

ちなみに全世界人口では約半数の感染が推定されるそうです。

これは、病気を発生させる細菌としてはトップクラスの多さです。

日本では6000万人~5000万人の感染者がいると言われています。

2人に1人がピロリ菌感染、というくらい多いものなのです。

ピロリ菌の感染経路

ピロリ菌の感染経路は大きく二つが考えられます。

一つが川や井戸水、もう一つが人からの感染です。

川や井戸水

自然界においては、ピロリ菌は主に水中に存在します。

具体的には、川や井戸水の中などです。

水道水には含まれていないので、ご安心ください。

 

上記の理由により、衛生環境の整っていない発展途上国などで感染が多く認められます。

日本も、かつては井戸水を使用する文化がありました。

よって中高年の方の感染率が高くなっています。

逆に、若年層のピロリ菌感染率は低下しています。

人からの感染

ピロリ菌は人から人へも移ります。

主には親から子への感染で、唾液を介在したものが考えられます。

例えば、口移しで食べ物を与えた場合やスプーンの共有などですね。

感染リスクの観点からは、口移しなどは控えた方が良さそうです。

キスは程度次第かと思いますが、避けた方が無難ではあります。

こんな人はピロリ菌に注意

ピロリ菌への注意の仕方としては、「予防」「検査・治療」があります。

予防に関しては、幼少期の子供に対するものが中心です。

検査・治療に関しては全ての方が対象ですが、特に40歳以上の方は早めの対応が良いと考えています。

5歳以下の子供

ピロリ菌感染は、主に5歳以下で起こると言われています。

幼少期は免疫能力も低く、胃酸の力も弱いためだと考えられます。

治療がされない場合、そのまま一生続く持続感染となることが殆どです。

一度ピロリ菌が住み着いてしまうと、大人になって免疫力が上がっても、自力ではピロリ菌を退治しきれないのですね。

つまり、幼少期にピロリ菌に感染しないことがまず大切になります。

40歳以上の方

また、特に注意が必要なのが40歳以上の方です。

既に成人されている方は、過去の環境でピロリ菌感染の有無が決定しています。

先程も述べましたが、衛生環境の改善に伴い、日本でも世代が若くなるにつれてピロリ菌の感染率は低下してきています。

ざっくりとですが、その年代の数字%の感染率くらいだと考えてください。

要するに20代は20%、40代は40%、60代は60%…のピロリ菌感染率となります。

実際は若干ずれるのですが、傾向としてはこの位です。

現実では40代からの感染率が特に上がっていく印象を受けます。

感染率の高い世代ほど、早めに検査して自分の状態を把握した方が良いでしょう。

 

更に、ピロリ菌感染は持続感染です。

だから、感染期間が長くなるほど不利益が大きいです。

重篤な事態を招く前に、早めの対応が望まれます。

結局:一度は皆検査してみよう

ただし、今の日本の10代、20代にもピロリ菌感染者は存在します。

症状は現れないことも多く、考えても感染の有無は分かりません。

以上を考えると、全員、一度はピロリ菌の検査をしても良いのではないかと思います。

 

なお、ピロリ菌の再感染はごくごく稀とされています。

0ではないので、治療終了後にも検査を希望されれば思考します。

しかし、毎年ピロリ菌検査を行う、というのは必要ないかと思います。

ピロリ菌が関係している病気

ピロリ菌は感染していても、多くは症状がありません。

健診などで、突然異常を指摘されて驚く方も多いです。

ただ、症状がなくとも、身体には確りと害を及ぼしています。

そして場合に寄っては、重篤な疾患を引き起こすのです。

萎縮性胃炎

ピロリ菌が関係する最も身近な病気が、萎縮性胃炎です。

長期間ピロリ菌に住み着かれた胃は炎症状態が続き、粘膜が障害されます。

そして上手く回復できずに、胃粘膜が薄くなり萎縮します。

これが萎縮性胃炎と呼ばれる状態です。

初期は範囲が狭く軽度で、症状はないことが多いです。

進行すると胃のほぼ全ての粘膜が萎縮し、胃部不快感や消化不良などの症状を訴える方もいます。

 

この萎縮性胃炎は、胃癌が発生する下地になることが分かっています。

健診では、ピロリ菌感染のサインとして拾い上げることが多いです。

萎縮性胃炎がある=ピロリ菌感染歴がある可能性が高い=注意が必要

と、考えます。

胃カメラで胃粘膜を確認すれば、萎縮性胃炎の有無は判明します。

胃バリウム検査でも進行した萎縮性胃炎は推定可能ですが、精度は胃カメラに劣ります。

だから私は、胃カメラでの健診を強く推奨しています。

過去の記事もご参照ください。

 

osibainu.hatenablog.com

胃がん

 日本人の胃がんの原因の98%がピロリ菌だと言われています。

つまり、ピロリ菌をコントロールできれば多くの胃がんにも対応できます。

菌を治療するだけで癌が防げるのです。

こんなにお得な話は無いと思います。

だから健診でも繰り返し説明しています。

ちなみに、一度胃がんに罹患した方も、ピロリ菌を治療することで再発のリスクを低くすることが出来ます。

 

ただ、注意が必要なことがあります。

ピロリ菌を治療しても胃がんリスクがゼロになる訳ではないことです。

特に高齢の方ほど、リスクが残ることになります。

これは、既に胃粘膜の萎縮が進行してしまった結果だと考えられます。

40歳代までに治療できた方は、概ね安心しても良いかと思います。

 

では、ピロリ菌の治療後はどうすれば良いのでしょうか。

ずばり、年に1回の胃カメラ検査を受けることをお勧めします。

これで早期に胃がんを発見できる確率が上がります。

早期の胃がんならば、内視鏡治療が可能なこともあります。

胃切除などの手術や抗がん剤治療が不要となることも多いです。

 

最後に確率を提示しておきます。

ピロリ菌感染者は、年間0.4%の確率で胃がんになると言われています。

低く感じるかもしれませんが、期間が延びれば確率も積み重なっていきます。

生涯を通しては、1割程度の方が胃がんになると推定されます。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因は主に3つあります。

ピロリ菌感染、NSAIDS(痛み止めなどの薬)、ストレスです。

どれか一つでも起こることがありますし、複合的に原因となることもあります。

ただ、胃潰瘍の方の70%にピロリ菌感染を認めたという報告があります。

リスクとなっていることは間違いありません。

ITP(特発性血小板減少性紫斑病/免疫性血小板減少性紫斑病)

ITPは、血小板に対する自己抗体が原因で血小板数が減少する疾患です。

血小板とは血液成分の一つで、血を止める働きをしています。

その血小板が免疫の異常で減る病気、と考えてください。

ピロリ菌がこの病気の原因となることがあります。

ピロリ菌感染のあるITPの場合、除菌治療で半数の方の血小板数が回復します。

緊急性が低いITPの方は、治療の第一選択はピロリ菌治療です。

胃MALTリンパ腫

リンパ腫というととても怖い病気のように感じる方も多いと思います。

実際怖い病気なのですが、胃MALTリンパ腫の治療の第一選択もピロリ菌治療です。

7割程度の方に、所見の改善を認めます。

ピロリ菌治療だけでリンパ腫が改善するって凄いことだと思います。

ただ、それで必ず治るわけではないので油断は出来ません。

 

胃MALTリンパ腫の90%の方にピロリ菌感染を認めます。

ピロリ菌は胃がんだけでなく、リンパ腫とも深く関連していると言われているのです。

FD(胃の機能性ディスペプシア)

胃の機能性ディスペプシアとは、胃に明らかな異常を認めないのに胃部不快感などの症状を有する病気のことです。

ピロリ菌陽性のFDでは、治療により症状が改善したという報告があります。

ピロリ菌陽性ということは、多くが萎縮性胃炎の方と言うことです。(※)

萎縮性胃炎は無症状の方と有症状の方がいると述べましたが、有症状の萎縮性胃炎はFDと診断すべきなのかもしれません。

煩雑になりましたので簡単にまとめますと、ピロリ菌陽性で胃の不快感がある方は、除菌で症状が改善する可能性があるということです。(※2)

 

※)萎縮性胃炎があってもFDと診断して良いことになっています。

※2)ただし、逆にピロリ菌治療で症状が悪化したという報告もあります。

   これは胃酸分泌の回復に伴う症状と推測されます。

逆流性食道炎

逆流性食道炎は、胃酸が食道へ逆流することで起こる食道粘膜の障害です。

ピロリ菌治療により、逆流性食道炎が増悪したという報告があります。

これは、ピロリ菌が除去されたことにより胃の粘膜が回復し、胃酸分泌が活発になったためではないかと考えられます。

ピロリ菌治療は良いことばかりです!と言いたかったのですが…。

デメリットもお伝えしなくてはいけないので、最後に挙げさせていただきました。

ただ、最近の報告では、統計学的にはピロリ菌治療で逆流性食道炎が増えることはないと言われているようです。

しかし、経験上、確かにピロリ除菌後に食道炎になる方はいらっしゃいます。

難しい所ですがこれに関しては、個人差も大きいのではないかと考えています。

ここからは私の考えです。

逆流性食道炎ならば、生活習慣の改善と投薬で治療は可能です。

ですから其れ以外の疾患のリスクを考えれば、逆流性食道炎のリスクを考慮してもピロリ菌治療はすべきだと思います。

平成25年から保険適用拡大になったピロリ菌治療

実際、平成25年よりピロリ菌治療の保険適用が拡大されました。

それまでは、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃がん治療後などの限定された方のみ、保険で除菌治療が出来ました。

その他の方は、治療したい場合は自費診療だったのです。

しかし、平成25年より「ピロリ菌による慢性胃炎」も除菌治療の保険適用となりました。

これは実質、ピロリ菌陽性は全例対象だと考えて良いです。

つまり、ピロリ菌治療の有効性を国も認めているのです。

まとめ

今回はピロリ菌について、全般的に解説しました。

ピロリ菌がどういうものなのか、まずは多くの方に知って頂ければ幸いです。

ピロリ菌は様々な疾患と関連しています。

その中でも特に胃がんの原因となり、早く治療すればするほど恩恵があります。

日本人では50%がピロリ菌感染者です。

決して他人事ではありません。是非、積極的に行動しましょう。

 

具体的には、正しい検査・治療が必要となります。

次回はそういった検査や治療について、説明していきますね。

ピロリ菌の検査・治療はそのメリットに対して、凄く簡単なのです。

 かかりつけの先生や健診医に相談してみるのも、良いと思いますよ。