内科医花芝の健康小話

ちょっと健康に役立つことをお話します。

新型コロナウイルスとかPCR検査とか諸々まとめ

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連日、新型コロナウイルス(COVID-19)に関する報道が繰り返されています。

テレビ、ネット、雑誌などで色んな情報が飛び交っていて、なかなか混乱は収まりそうにありません。

花芝は平々凡々な内科医ですので、一般の方が入手されているのと同じ程度の情報しか持っていません。

しかし最近、とても頻繁に病院で聞かれるのです。

先生、コロナウイルスって正直やばいんでしょうか?

 本気で心配されている方から、世間話感覚の方まで、さまざまですが…。

今日は自分の備忘録の意味も込めて、現時点での情報を整理しておきたいと思います。

新型コロナウイルスとは

コロナウイルスは、王冠のようなスパイクのある外見のウイルスです。
現在までに7種類が発見されています。
そのうち4種類はいわゆる風邪を引き起こす通常型ヒトコロナウイルスです。
残りがより病原性の強いもので、以下の3種類です。

重症急性呼吸器症候群CoVSARS-CoV
・中東呼吸器症候群CoV(MERS-CoV
新型コロナウイルス(2019-nCoV)

新型コロナウイルスは、遺伝子学的にはSARS-CoVの近縁のようです。
2019年の12月より中国の武漢で感染の流行が始まりました。

新型コロナウイルスの症状

ウイルスが何処に感染するかによって症状が異なります。
しかし、概ね呼吸器症状のようです。
具体的には、発熱、咳、筋肉痛、倦怠感、呼吸困難など。
また、頭痛、喀痰、血痰、下痢などを伴う例もあります。

 

「これがあったら新型コロナです」という特徴的な症状はありません。
一般的な風邪やインフルエンザ、肺炎の症状とほぼ同じということです。

死亡例では肺炎が重篤化したり、敗血症(※)が起きていると考えられます。

※敗血症:感染が原因で全身に炎症が起こり多臓器障害などがおこること

 

また、感染していても全員が発症する訳ではなく、無症状のままの方もいます。

新型コロナウイルスPCR検査

上記のように、症状だけでは新型コロナウイルスを診断することが出来ません。

そこで話題になっているのが、PCR検査ですね。

PCR検査とは、とても簡単に説明すると、特定の遺伝子を増幅させて、目で見えるような状態に細工して検出する方法です。

今回の場合だと、患者さまの検体にある新型コロナウイルスに特徴的な遺伝子を増幅させて、その有無をチェックすることになります。

 

PCR検査は1件終了するまでに5時間はかかり、同時進行で行うにも限度があります。

つまり、インフルエンザの迅速検査のように、ばしばし行える検査ではないのです。

また、当然ほかの病気のPCR検査などもある訳ですから、通常診療にも支障をきたさないようにしなくてはいけません。

PCR検査の偽陰性偽陽性、検査前確率の問題

更に一つ考えておかなくてはいけないのが、偽陰性偽陽性の問題です。

偽陰性実際には病気があるのに陰性と出ること

偽陽性:実際には病気が無いのに陽性と出ること

どんなに素晴らしい検査でも、一定の確率で間違いが生じます。

例えば、さきほど名前を出したインフルエンザの迅速検査にも偽陰性偽陽性はあります。

PCR検査でも当然、偽陰性偽陽性が発生します。

 

その検査がどの程度信頼できるのかは、さまざまな要因が関係します。

具体的には、たとえば以下の三つです。

感度:病気がある人に対して、陽性と判断された人の割合

特異度:病気がない人に対して、陰性と判断された人の割合

検査前確率:検査前、どれくらいその病気の可能性があるか

感度が高ければ、病気を持つ人を殆ど見逃すことなく陽性判定できます。

特異度が高ければ、陰性判定が出た時には殆どその病気ではないと判断できます。

ちなみにインフルエンザ迅速検査は感度60%程度、特異度95%以上です。

つまり、陽性と出ればほぼ間違いなくインフルエンザだけど、陰性でも油断は出来ない…ということになります。

 

これに更に関与してくるのが検査前確率です。

その集団での有病率、とも言いかえることが出来ます。

ざっくり言うと、検査前確率が低いと同じ検査でも偽陽性が増えます。

その病気らしくない人、可能性が低そうな人を検査すると、陽性が出ても信頼度が落ちると言うことです。

健康な人ばかり纏めて連れて来て検査をしたとしても、検査にはどうしても偽陽性が生じてしまうので、その割合が目立ってしまうのです。

検査が必要なのは、その検査で次の行動が変わるときだけ

 新型コロナウイルスの話にやっと戻ってきます。

私は検査が必要なのは、その検査で次の行動が変わるときだけだと思っています。

 患者さんとの濃厚接触はあるけど症状は今のところない…という方は、最大潜伏期間と思われる14日間は他の方への感染に気を付けなくてはいけません。ある時点でPCR検査陰性だったとしてもです。行動が変わらないので、この時点では検査を受ける意義はあまりないのかもしれません。

不安で検査を受けたい、というお気持ちもとても分かります。

しかし最新の検査だったとしても、陰性が出たら無罪放免、陽性なら絶対病気、という単純なものでもないのです。

お一人お一人の症状や感染者との接触度など、色々な要素を踏まえて、検査の必要性を含めた判断が求められるのだと思います。

なお、新型コロナウイルスPCR検査の感度と特異度はまだ分かっていません。

PCR検査ですので、おそらく悪くない数字にはなると思います。

新型コロナウイルスの診断

呼吸器症状を認めた場合、他の病気の鑑別がとても大切です。

インフルエンザ、他の細菌感染症などの鑑別検査や、肺炎の有無を確かめる胸部レントゲン検査やCT検査などを行います。

① 呼吸器症状などがあり

②原因が特定できず

③中国湖北省への渡航歴または新型コロナウイルス感染症が疑われる方との濃厚接触(※)がある場合

PCR検査の対象となります。

PCR陽性が出たら、確定診断となります。

 ※濃厚接触者:新型コロナウイルス感染症が疑われるものと同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があったもの

 新型コロナウイルスの感染の仕方

現時点では、飛沫感染接触感染の2つが考えられています。

飛沫感染
感染者の飛沫(くしゃみ、咳、つば)と一緒にウイルスが放出されます。
他者がそのウイルスを、口や鼻から吸い込んで感染します。

接触感染
感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後、その手で周りに触れるとウイルスが付きます。
他者がその物を触るとウイルスが手に付着し、その手で口や鼻を触って粘膜から感染します。

新型コロナウイルスは空気感染をするのではないか、という情報もありました。
ただ、これは通常の空気感染とは少し違うようです。
現時点での情報では、気道吸引や気管挿管などの処置の際にエアロゾルが発生して感染を起こすことがある、ということのようです。
今後の情報にも注意は必要ですが、今は上記二つの感染経路を注意していくのが大切だと思います。

 

潜伏期間は明確には判明していませんが最長で14日間と考えられます。

5-6日と考えている研究機関が多いですが、余裕を持って設定されています。

 

無症状のウイルス保持者からも感染は起こります。

ただ、一般的な感染症では有症状の方からの方が感染しやすいです。

新型コロナウイルスにこの法則が当て嵌まるかはまだ不明です。

しかし咳や痰やくしゃみで感染すると考えれば、ある程度は準拠すると思います。

スーパースプレッダー

SARSのときに少し話題となったので、覚えている方もいらっしゃるでしょう。

一人で多くの人に感染を広げてしまう方をスーパースプレッダーと言います。

新型コロナウイルスは一人の感染者から2-3人に感染するようです。

しかし、一人で10人以上への感染を引き起こした方が報告されています。

スーパースプレッダーの特徴などは分かっていませんが、自分がそうならないように「病気をうつさない為の感染対策」もとても大切です。

新型コロナウイルスの治療

現時点では新型コロナウイルスそのものへの治療薬はありません。

呼吸不全には酸素投与や人工呼吸を行うなど、対症療法を行いつつ回復を待つことになります。

ただ、2020年2月21日の発表で、WHOがエイズなど他の病気の治療薬を用いた臨床試験を行い、3週間以内に結果が判明するとありました。

結果次第では、状況も好転していくと思います。

新型コロナウイルスの致死率

中国でのデータが公表されています。

症例7万2314件のうち、感染が確認された(症状がありPCR陽性)のは4万4672件。
そのうちの死亡数が1023人。

割り算をして、致死率2.3%と出ています。

 

内訳は高齢者や基礎疾患のある方の致死率が高かったようです。

子供や若い方は殆ど亡くなっていません。

全体の重症度では、

軽症が80.9%
重い肺炎や呼吸困難など重症は13.8%
呼吸不全や敗血症、多臓器不全など重篤な症状だったのは4.7%

となっています。

 

また、中国湖北省以外の地域での致死率は0.4%だったようです。

これは湖北省では患者数急増に伴い医療対応が十分に出来なかったこと、それに伴い重症患者が増えてしまったことなどが原因と推測されます。

 

日本について計算してみます。
データが纏まっていないので、間違っていたらすみません。
チャーター便とクルーズ船の事例も全て含めるとして、
患者数(69+10+306)= 385
うち、死亡数が3なので、3÷385×100 = 0.78%

※クルーズ船の症例を日本の発生件数に含めるのは正しくないかもしれませんが、今回は含めて計算しました。

 

単純にこの数字だけを見て、何かを結論付けるのは難しいです。

ただ、SARSの致死率が9.6%、MERSの致死率が35%ですので、それよりは低い数字です。

しかし新型コロナウイルスは特に高齢者の方に猛威を振るいます。

日本は高齢の方が多い人口比率ですので、気を付けなくてはいけません。

新型コロナウイルスの感染予防

主に飛沫感染接触感染を起こすので、その予防を行います。

基本はマスクの着用、手指衛生の徹底です。

マスクの着用は、咳やくしゃみによる飛沫と、そこに含まれるウイルスの飛散を防ぐ効果が高いです。

マスクは自分の防衛よりも、他人を感染させない為の効果が強いのです。

ただ、うっかり鼻や口を手で触るのは防がれるので、多少の自衛(接触感染対策)にはなります。

手指衛生の基本は手洗いです。

流水と石鹸でしっかりと磨きましょう。

手洗い後のアルコール消毒も有効です。

多すぎるかな、という位の量を指に確り乾くまで擦りこむのが良いです。

まとめ:新型コロナウイルスに適切に対応していきましょう

まとめながら思ったのですが、やはりかなり情報が散らかっていますね。

感染者数のデータなども頑張って探せば見つかるのですが、もう少し分かりやすく提示してあっても良いのかなと思いました。

(と言いつつ、読み間違えなどあったら申し訳ないです)

 

既に日本国内の色んな地域でも、新型コロナウイルスの感染が確認されています。

ただ、重症化している症例がとても多い訳でもないようです。

過剰に怖がり過ぎても、過剰に油断してもいけない状況です。

病気を怖れすぎてパニックになることなく、しかし油断せず感染を拡大させない為の対策を地道に行っていくことが大切なのではないでしょうか。

少しでも参考になれば幸いです。