活字のパワーって凄い。「雑誌にこの薬は怖いって書いてた!」
こんばんは、花芝です。
健康診断の時に患者さまとお話していると、よく聞く台詞があります。
雑誌にこの薬は飲んじゃダメって書いてました!
血圧は下げなくても大丈夫って本で読みましたよ。
さあ、私はこれに対してどうやってお返事をしていきましょう。
- 医師の仕事は、皆さんを健康にするお手伝い
- 雑誌や本やwebサイトの明らかな嘘
- どんな人がその文章を書いているのかということ
- 筆者への印象は美化されがち
- 活字そのものにも力があります
- 活字効果が悪用された場合とても厄介
- そうだ私も文章を書こう
- まとめ:手に入れた情報は冷静に判断していこう
医師の仕事は、皆さんを健康にするお手伝い
病気の最終的な治療方針を決めるのは患者さま本人です。
医師はその最大限のお手伝いをするものだと考えています。
そしてそのお手伝いの中には、正しい情報提供も含まれています。
明確な「正解」というものは存在しないのかもしれません。
決定には、それまでの色んな経験、手に入れた知識、感情など様々な要素が絡みます。
例えばお薬で酷い目にあったことがある方は、薬に嫌悪感があるかもしれません。
昔読んだ本に書かれていた内容を、絶対だと信じていることもあるでしょう。
それは全てが否定されるべきものではありません。
ただ、自分の持っている医学的知識と齟齬がある場合は、努めて丁寧に説明を行います。
全てをお話した上で、最終的には患者さまが一番納得する方法を選んでいただければ良いと考えています。
……と、そう考えているのは大前提なのですが。
雑誌や本やwebサイトの明らかな嘘
ご自身の経験が起因する薬への嫌悪感や恐怖感は仕方がないと思うのです。
因果関係が曖昧だったとしても、実体験の印象は強いものです。
しかし雑誌や本の明らかに過剰な表現や、場合に寄っては嘘とも言える内容に影響されている方もいらっしゃるように感じます。
私自身、自分の考えが全て正しいとは思いません。
けれど「これは絶対に違うのでは」という場合も流石にあります。
その情報源が、明らかにいい加減な下準備で書かれた雑誌や本の内容だったとき、とても悔しい思いをするのです。
その雑誌や本を制作した人を密かに恨んだりもします。
最近では、webサイトの一部も含まれますね。
これは多分、自分の仕事を邪魔されているように感じるからなのでしょう。
どんな人がその文章を書いているのかということ
例えば、このブログはどんな人間が書いていると思いますか?
私はアイコンと内科医という立場くらいしか情報を表に出していません。
しかし、それでも何となく想像できたかと思います。
そのイメージが実物に近いか遠いかは分かりません。
ただ、私たちは読んでいる文章の向こう側に、書いている人間の姿を想像することができます。
そしておそらく無意識に、普段から想像しています。
筆者への印象は美化されがち
写真、イラスト、役職、仕事、今の状況など。
何か筆者の情報があればそれに基づき、文章や内容も考慮してこのイメージは出来上がります。
そして大抵の場合、この印象はプラスからスタートしていると思います。
批判目的で読むなどの特殊事例を除いて、悪印象の相手の文章をわざわざ読む人は少ないでしょうから…。
自分の中で良い方に、筆者を美化して想像してしまいやすいんですね。
薬の内容を書いてあるのなら、権威ある先生のありがたい言葉のように感じます。
ほのぼの日記なら、優しくて温かそうな人が書いている姿を想像します。
活字そのものにも力があります
「活字」そのものが持つパワーもあると思います。
整然と並んだ活字には、何となく頷きたくなる力があるのです。
学校で教科書を使って勉強をしてきたときの擦りこみでしょうか。
それ自体は、悪いことでは決してないとは思います。
悪用されるので、ないのならば。
活字効果が悪用された場合とても厄介
問題なのは、この文章や文字が持つ力を悪用されたときです。
よくある手法のひとつは、薬の悪い副作用のみに着目し、そこを誇大化して批判する方法でしょうか。
薬は色んな作用を持っていて、望ましくない悪い副作用を含む場合もあります。
だから私も、必要のない薬はのむべきではないと考えています。
ただ、大切なのは作用と悪い副作用を天秤にかけて、どちらの方が優先すべきかを判断することです。
悪い副作用のみを取り上げ、羅列し、こんな風になるからこの薬は毒だ、と断じるのでは一方向からしか物事を見られていません。
もっとも、この手の本や雑誌の多くは、わざとこういったスタイルをとっているのだとは思います。
注目も得られるでしょうし、一定の割合で信じる方もいるでしょうから、何らかの利益があるのかと思います。
そうだ私も文章を書こう
明らかに活字の力を悪用した雑誌や本の内容に影響された患者さまと相対した場合、 真摯に説明をすれば伝わることもあったし、駄目だったこともありました。
外来の患者さまとは信頼関係を築きつつ、お話を進めていくことが出来ます。
しかし健診医は、患者さまとお話できる機会は多くて一年に一回。
下手をすれば一生で一回だったりします。
その短時間で、これまでその方が積み上げてきた信念のような想いに切り込むのは、やはり難しい場合もあるのです。
例えばステロイドに不信感を持っていたある患者さまは、私が「ステロイド」という言葉を口にしただけで顔を強張らせたのが分かりました。
その方の心がみるみる閉ざされていくのを感じました。
こうなってしまうと、短時間でお話をするのはかなり困難です。
そして私は思いました。
こうなったら、こちらも活字で対抗するしかないと。
折角、誰もがこうして情報発信が出来る時代です。
私の考えが正しいかは分かりませんが、少なくとも自分が正しいと思うことを発信していきたいと考えています。
まとめ:手に入れた情報は冷静に判断していこう
本や雑誌には、明らかに意図的に極端な内容(特定の薬を悪くいうなど)が書かれていることもあります。
それが正しいのか否か、すぐに判断するのは難しいことも多い筈です。
大切なのは自分で色々と調べてみることだと思います。
その上で冷静に内容を見極めていきましょう。
悩んだら身近な人に相談してみるのも一つの手ですよ。