鉄欠乏性貧血について解説します。甘く見ると危険ですよ。
先日は、「貧血」について解説しました。
その中でも健診で特によく指摘されるのが、「鉄欠乏性貧血」です。
私は昔から貧血と言われていますが、元気なので大丈夫です!
→実は重症の貧血。
昨年、貧血を指摘されて治療しました。1カ月くらいで完治しました。
→今年も貧血を指摘される。
……上記のようなパターンが大変多いのが特徴です。
健診は受けることも大切ですが、その結果を活かすこともとても大切です。
「鉄欠乏性貧血」と指摘されたとき、どうすれば良いのか。
一緒に見ていきましょう。
貧血についての全般的な解説は、こちらをご覧ください。
鉄欠乏性貧血とは
赤血球の大切な役割は、血管を流れて体中に酸素を運ぶことです。
この赤血球の主たる構成要素で、酸素を運ぶ能力を持つのがヘモグロビンです。
そして、ヘモグロビンの材料が鉄となります。
つまり鉄は赤血球の材料で、不足すると赤血球が正常に作ることが出来ない。
と、理解していただければ大丈夫です。
貧血のうち、この鉄不足で起こるものを「鉄欠乏性貧血」と言います。
鉄欠乏性貧血は、主材料が不足する為に赤血球が小型化しやすいです。
貧血の内、血球が小型化しているものを小球性貧血と言います。
小球性貧血の原因は色々ありますが、健診などで見かける場合は概ね鉄欠乏性貧血によるものと考えて良いと思います。
どうして血球の大きさを気にするのかというと、それが病気の情報になるからです。
一般的に、健診では血液中の鉄の量を測ることは殆どありません。
しかし血球の大きさは比較的簡単に知ることが出来ます。
そこで、小球性貧血を認めた場合は、おそらく鉄欠乏性貧血なのだろう、と予測できるのです。
勿論、正確な診断には追加の検査が必要です。
体の中での鉄
体内中には鉄が3~4g存在しています。
では、身体のどこに鉄があるのでしょうか?
その分布は以下の通りです。
体内鉄のうち7割が赤血球
体内鉄の7割近くが、赤血球として分布しています。
つまり分かりやすく言えば、体の中の鉄の大半は赤血球です。
血を失う=鉄を失うということですね。
体内鉄のうち2割が貯蔵鉄
また、体内鉄の2割程度が貯蔵鉄として蓄えられています。
鉄は無くては生きていけない重要なものなので、もしもの時の為の貯蓄があるのです。
鉄は主として肝臓で、フェリチンとして蓄えられます。
血液中のフェリチンも測定可能で、貯蔵鉄がどれくらいあるかの目安になります。
その他、筋肉中や酵素などに鉄は分布しています。
1日の鉄の喪失量(=必要量)は僅か1mg
赤血球の寿命は120日程度です。
しかし、寿命を迎えた赤血球の中の鉄は再利用され、失われません。
鉄の喪失は通常ではわずか1mg/日程度で、消化管や皮膚からの細胞脱落によります。
そしてこの1mgを、毎日の食事で補うこととなるのです。
鉄は十二指腸から主に吸収されますが、20mg摂取に対し約1mgが吸収されます。
摂取した全てを取り込んでくれるわけではないのです。
難しく感じた方は、以下のことだけ確認してください。
体内中の鉄の7割は赤血球である。
体内中の鉄の2割は肝臓に貯蔵鉄(フェリチン)として蓄えられている。
1日に必要な鉄摂取量は20mgだが、そのうち吸収されるのは1mgだけ。
鉄欠乏性貧血の原因
上記のバランスが崩れて鉄が不足すると、鉄欠乏性貧血となります。
主に、鉄の摂取不足と、鉄の喪失が挙げられます。
鉄の摂取不足
偏食などに伴う鉄摂取不足を認める場合があります。
また、消化管機能の低下、消化管手術後で吸収障害を起こす場合があります。
鉄の喪失
圧倒的に多い原因が鉄の喪失です。
つまり、血液を失うことです。
体内における鉄のバランスは、かなりぎりぎりの所で成立しています。
そこで僅かでも出血などが起こると、貧血の原因になってしまうことがあります。
血液を失う原因で最も多いのは、女性の月経です。
平均で0.5mg/日の失血を認めます。
過多月経の方は、更に多くの鉄を失っていると思われます。
また、失血ではないのですが、妊娠・授乳期間中も鉄の必要量が増えるので、鉄は不足しがちになります。
その他の原因で重要なのが、不顕性の出血です。
つまり、自分で気づかないうちに身体のどこかから出血が起きているということです。
逆流性食道炎、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、痔核などが多いです。
また、悪性疾患(がん)が見つかることもあります。
鉄欠乏性貧血の症状
貧血による症状として、疲れやすくなる、息切れ、めまい、顔色が悪くなる、動悸がする、などを認めます。
ただしゆっくりと進行した貧血の場合、症状が現れないことも多いです。
これは、身体が貧血状態に慣れてしまっているからです。
しかし無症状でも、心臓などに確実に負担はかかっています。
また、特徴的な症状として、異食症を認めることがあります。
これは、氷や土などを食べたくなる、というものです。
その他に重症の場合、舌炎、口角炎、匙状爪(スプーンネイル)を認めることがあります。
鉄欠乏性貧血の治療
まずは鉄欠乏の原因を突き止めることが大切です。
原因が不明では、治療をしても根本的解決に至りません。
その上で、治療についてお話していきます。
これは、この記事で私が一番お伝えしたかったことでもあります。
鉄欠乏性貧血の治療は必ず長期戦になります。
ヘモグロビンが回復しただけで終了してはいけません!
詳しく見ていきましょう。
鉄欠乏性貧血では、鉄が不足しているのですから鉄を補充します。
補充方法には、食事、お薬の内服、注射、があります。
鉄分の注射(フェジンなど)
注射に関しては便利ではありますが、過剰鉄の問題があります。
鉄は多すぎても体に問題を起こすのです。
食事や内服では、摂取しても全量が吸収される訳ではありません。
しかし注射は直接血管に入りますので、過剰となる危険性があります。
ですから、鉄剤が内服出来ない理由があったり、重篤な貧血で治療を急ぐ場合のみ、使用されます。
鉄剤の内服(フェロミアなど)
病院での治療の中心となるのが、鉄剤の内服治療です。
フェロミアという薬の場合、1錠で50mgの鉄を含んでいます。
通常、1日に2~4錠、つまり100~200mgの鉄を補充することになります。
鉄剤の吸収率は、健康成人で10~20%、鉄欠乏状態では50~60%のようです。
ここで問題となるのが、いつまで治療をするのか、です。
鉄剤の内服を継続していくと、多くの方が1~2か月程度でヘモグロビンが回復します。
これで治療は終了、ではありません。
大まかな目安ですが、ヘモグロビン回復後も半年程度は鉄剤の内服をお勧めします。
これは貯蔵鉄の回復に必要な期間です。
貧血はヘモグロビン→貯蔵鉄(フェリチン)の順番に回復します。
見た目上で貧血が回復していても、貯蓄が無ければすぐにまた貧血状態に戻ってしまうことがあります。
しっかり鉄分を蓄えきって、ようやく治療が終了となります。
つまり血液検査でフェリチンの値が正常化するのが、本当のゴールです。
なお、根本的な失血の原因が改善できない場合があります。
月経の出血が多く、常に鉄が不足状態…という状態などです。
勿論、子宮筋腫など、出血が増える原因となる婦人科系の疾患がある場合は、そちらの治療も検討が必要です。
しかし、そういった病態もなく、純粋に鉄が不足するという場合…。
閉経まで鉄剤を内服し続ける必要があることがあります。
食事・サプリメントによる鉄摂取
先にお話した通り、鉄は食事での吸収率が低いです。
だから食事だけで不足鉄全ての補充は難しいことが多くなります。
しかし、元々の鉄摂取量が少ない方の場合は、少し気を付けるだけで随分と貧血の治療が楽になります。
無理のない範囲で、食事を改善していきましょう。
重要とされるのは以下の点です。
①食事はバランスよく1日3回食べる
②鉄分を多く含む食品の摂取を心がける
レバー、赤身肉、ひじき、あさり、かき、緑黄色野菜、切り干し大根など
③鉄吸収を助けるビタミンCを摂取する
④鉄吸収を阻害する飲料を食事中は避ける
緑茶、紅茶、ウーロン茶、珈琲など
⑤吸収を高める為、よく噛んでゆっくり食べる
ただ、あまり神経質にならず、出来るところから気を付けていくと良いと思います。
この中で一番大切なのは①です。
きちんとバランスの良い食事がとれていれば、鉄不足になることは少ないのです。
その上で、更に鉄分を摂れるように…と考えるのが良いのではないでしょうか。
サプリメントや健康食品による鉄分の摂取も良いと思います。
その場合は、含まれる鉄の量などを確認しましょう。
ただ、貧血がある場合は、経過を見る為に一定期間ごとに病院で採血検査を受け角が望ましいです。
貧血の程度、鉄、フェリチンの数値は、採血しなくては分かりません。
鉄分をうまく摂取する工夫
ちなみに、鉄剤やサプリメント内服において非常に多い訴えが嘔気です。
鉄って金属ですので、胃にたまるというか重たい感じがするのです。
この場合、まず量を減らしてみましょう。
量が多いほど副作用は出やすくなります。
また、眠前の内服で、継続できた方も沢山いらっしゃいます。
要するに、飲んだら後はもう寝るだけ!と、嘔気が出る前に寝てしまうのです。
勿論、病院で治療中の方は、担当の先生に相談してくださいね。
余談ですが、この嘔気を利用してダイエットしようとした同僚がいました。
鉄のサプリメントを内服して、食事量を減らす作戦だったみたいです。
傍から見ていた私が止めようか悩んでいる数日の間に、作戦は中止になりました。
嘔気が強すぎて継続するのが無理だったそうです。
内服鉄剤では鉄過剰が起こることは稀とは言え、良い子も悪い大人も絶対に真似しないようにしましょう…。
まとめ
鉄欠乏性貧血について、お話させて頂きました。
とにかく放置・繰り返し・軽視、されることの多い病気です。
しかし、重篤な疾患が隠れていることもありますし、繰り返せば身体への負担は大きくなっていきます。
軽症の内から確りと対処していくこと。
治療を開始した場合は、長期戦と考えて確実に治すこと。
以上を心がけて頂ければ幸いです。
たかが貧血、されど貧血です。しっかり治療しましょう。