高血圧はどこから?正しい測り方と基準値・目標について。
皆さんは、血圧を測る機会はどれくらいあるでしょうか?
病院受診の際は勿論、最近では公共施設や会社にも設置されていることがあるようです。
健診でも血圧についての質問を多く頂きます。
自宅での血圧は朝と夜、どちらに測れば良いのですか?
普段は問題ない血圧だけど、病院に来ると上がってしまうんです!
健康の身近なバロメーターである血圧。
その測定方法や目標値などについて今日はお話していきます。
高血圧の基準(2019ガイドラインより)
血圧が高いのは良くない、ということは多くの方がご存知だと思います。
しかし、「130なら危ない」「いやいや140までは大丈夫」など、色々な情報が氾濫していて分かり難くなっているのが現状です。
実は医師の間でも、何処まで血圧を下げるのかは意見が分かれています。
今回は最新の『高血圧治療ガイドライン2019』より、高血圧の基準をお伝えします。
花芝も実際、このガイドラインを参考に診療を行っています。
正常血圧
正常血圧
診察室血圧:120/80mmHg未満
家庭血圧 :115/75mmHg未満
正常血圧は、診察室血圧で120/80mmHg未満、家庭血圧で115/75mmHg未満です。
多くの方の想像より、厳しい基準だったのではないでしょうか。
実際、この数字をクリアできている方は健診でもかなり少ない印象です。
どうしてこの数字が設定されているかというと、血圧120/80以上では血圧が上がるごとに、脳心血管病リスクが上昇すると分かっているからです。
そして、正常血圧より高い血圧の方は、全員生活習慣の修正が必要とされています。
内服治療までは要らずとも、何らかの対応をしていくのが望ましいのです。
なお、2014年の基準では、至適血圧を120/80mmHg、正常血圧を130/85mmHgとしていました。
名称の変化を見るだけでも、厳しくなっていることが受け取れます。
また、健診でも現状ではこの「130/85未満」を正常(A判定)としています。
多くの方の「血圧130までは大丈夫」は、こういった理由なのでしょう。
血圧に関しては、健診でA判定だったとしても注意が必要です。
実はもっと下げた方が良いこともある、と知って頂けたら幸いです。
正常値高血圧・高値血圧
正常値血圧・高値血圧
診察室血圧:120-139/80-89mmHg
家庭血圧 :115-134/75-84mmHg
血圧は実は何段階にも分類されているのですが、今回は分かりやすくまとめます。
正常値高血圧・高値血圧は、正常ではないけれど、高血圧まではいかない方。
高血圧予備軍、のような位置づけだと考えてください。
この分類に留まる方でも、投薬治療が望ましいことがあります。
それは脳心血管病リスクが高い場合です。
脳心血管病リスクは具体的には以下のものなどです。
最終的には医師の判断が必要となってきます。
該当する方は、かかりつけの先生に相談してみるのも良いと思います。
脳心血管病リスク
中等リスク:65歳以上、喫煙、脂質異常症、男性
高リスク:脳心血管病既往、非弁膜症性心房細動、糖尿病、蛋白尿のある慢性腎臓病、中等リスク3つ以上
高血圧
高血圧
診察室血圧:140/90mmHg以上
家庭血圧 :135/85mmHg以上
高血圧にもⅠ度高血圧、Ⅱ度高血圧、Ⅲ度高血圧という分類があります。
基本的には数字が増えるほど、血圧は高くなります。
今回は煩雑なので、ひとつに纏めさせていただきました。
高血圧の方は、生活習慣の修正を積極的におこなわなくてはいけません。
また、必要に応じて降圧薬治療を開始することが推奨されています。
血圧の目標値。此処を目指そう。
生活習慣の改善や投薬治療を開始するとして、どれ位の血圧を目指せば良いのでしょうか。
「正常血圧」を目指したいのは山々です。
しかし、急激な降圧は身体に悪影響を招くことがあります。
また高齢者の方の場合、強すぎる降圧が負担となることもあります。
総合して、降圧目標値は以下のように決められています。
降圧目標
75歳未満の成人 :診察室血圧 130/80mmHg
75歳以上の高齢者:診察室血圧 140/90mmHg
家庭血圧の目標は、これより5mmHgずつ低いと考えてください。
ただし、75歳以上の方でも薬の投与に問題が無ければ、厳しい降圧目標を目指すことがあります。
特に糖尿病や慢性腎臓病の方は、降圧目標が厳しくなることがあります。
自宅での正しい血圧の測り方
血圧計の選び方
血圧計には腕で測るものと、手首で測るものがあると思います。
より正確さを求めるなら腕で測定するものが良いです。
ただ、私はとにかく測定してみる、測定を続けることが大切だと考えています。
手首測定の方が気軽で続けられそうだと思うのなら、それでも構わないと思います。
まずは一台、家庭に血圧計を準備してみましょう。
血圧を測る時間帯
血圧は小さなことでも変化します。
同じ人でも、時間帯や活動の有無・その時の感情などで血圧は変動します。
正確な記録を取るために、毎日出来るだけ同じ時間で測定しましょう。
血圧は朝に上がる方、夜に上がる方、日中高い方、など色んなパターンがあります。
自分の状態をよく知る為に、可能であれば朝・夜2回の測定が望ましいです。
そんなに沢山測るのは無理、という方は朝だけ、夜だけでも大丈夫です。
とにかく測定をすること、継続することが大切です。
朝は起床後、朝食前、排尿した場合は少し休んでから測りましょう。
夜は入眠前、リラックスできる状態の時に測りましょう。
血圧の測定・記録を付けましょう
測定前は、出来れば1-2分程度座って安静にすることが理想です。
難しい時は、数回深呼吸して気分を落ち着けましょう。
また、可能であれば2回測定してその平均をとるのが望ましいとされています。
しかし難しければ1回でも構いません。
そして測定結果は日時と共に必ず記録しましょう。
その記録の積み重ねが、健康になる為の大切なデータになります。
病院で血圧が上がる「白衣高血圧」について
家庭血圧は問題ないのに、診察室血圧だけが上昇する方がいます。
いわゆる、「病院に来ると血圧が上がる」という方です。
これは「白衣高血圧」と言われ、緊張などが原因だと考えられます。
血圧の診断は基本的には家庭血圧で行います。
ですから、家庭血圧が問題ない場合、基本的には治療対象にはなりません。
ただ、白衣高血圧の方にもリスクがあります。
実は白衣高血圧は、将来通常の高血圧に移行しやすいことが分かっています。
また、緊張やストレスで血圧が上がりやすい、というのも注意が必要です。
もし日中に仕事のストレスなどを感じ続けている場合、その間ずっと血圧が高くなっている可能性があります。
血圧が高くなっている時間が長くなると、当然、脳心血管リスクが高まります。
白衣高血圧の方は、家庭血圧を測定したり、可能であれば外出先でも血圧を測定してみてくださいね。
本当に怖い「仮面高血圧」
病院では血圧が正常だけど、家では血圧が高い方がいらっしゃいます。
つまり、白衣高血圧の逆のパターンです。
こういった方は「仮面高血圧」と言います。
このタイプの方は、病院の診察だけでは高血圧を見落としてしまいます。
例えば早朝高血圧という、朝方にかけて血圧が上がるタイプの方がいます。
また、夜間に血圧が上がりやすい方もいます。
このような場合、家庭での血圧を測定していなければ、高血圧に気づくことが出来ません。
そして仮面高血圧の方の脳心血管リスクは、普通の高血圧の方か其れ以上、と言われています。
少しでも心配な方は、試しに自宅で血圧を測定してみるのが良いかもしれません。
まとめ
今回は、高血圧の基準や測定方法についてお話しました。
意外と高血圧の基準が厳しく、驚いた方も多いのではないでしょうか。
何をするにも第一歩は、自分の状態を正しく把握することです。
自宅での血圧測定、是非始めてみてくださいね。
血圧を測定・記録して、健康への第一歩に!
鉄欠乏性貧血について解説します。甘く見ると危険ですよ。
先日は、「貧血」について解説しました。
その中でも健診で特によく指摘されるのが、「鉄欠乏性貧血」です。
私は昔から貧血と言われていますが、元気なので大丈夫です!
→実は重症の貧血。
昨年、貧血を指摘されて治療しました。1カ月くらいで完治しました。
→今年も貧血を指摘される。
……上記のようなパターンが大変多いのが特徴です。
健診は受けることも大切ですが、その結果を活かすこともとても大切です。
「鉄欠乏性貧血」と指摘されたとき、どうすれば良いのか。
一緒に見ていきましょう。
貧血についての全般的な解説は、こちらをご覧ください。
鉄欠乏性貧血とは
赤血球の大切な役割は、血管を流れて体中に酸素を運ぶことです。
この赤血球の主たる構成要素で、酸素を運ぶ能力を持つのがヘモグロビンです。
そして、ヘモグロビンの材料が鉄となります。
つまり鉄は赤血球の材料で、不足すると赤血球が正常に作ることが出来ない。
と、理解していただければ大丈夫です。
貧血のうち、この鉄不足で起こるものを「鉄欠乏性貧血」と言います。
鉄欠乏性貧血は、主材料が不足する為に赤血球が小型化しやすいです。
貧血の内、血球が小型化しているものを小球性貧血と言います。
小球性貧血の原因は色々ありますが、健診などで見かける場合は概ね鉄欠乏性貧血によるものと考えて良いと思います。
どうして血球の大きさを気にするのかというと、それが病気の情報になるからです。
一般的に、健診では血液中の鉄の量を測ることは殆どありません。
しかし血球の大きさは比較的簡単に知ることが出来ます。
そこで、小球性貧血を認めた場合は、おそらく鉄欠乏性貧血なのだろう、と予測できるのです。
勿論、正確な診断には追加の検査が必要です。
体の中での鉄
体内中には鉄が3~4g存在しています。
では、身体のどこに鉄があるのでしょうか?
その分布は以下の通りです。
体内鉄のうち7割が赤血球
体内鉄の7割近くが、赤血球として分布しています。
つまり分かりやすく言えば、体の中の鉄の大半は赤血球です。
血を失う=鉄を失うということですね。
体内鉄のうち2割が貯蔵鉄
また、体内鉄の2割程度が貯蔵鉄として蓄えられています。
鉄は無くては生きていけない重要なものなので、もしもの時の為の貯蓄があるのです。
鉄は主として肝臓で、フェリチンとして蓄えられます。
血液中のフェリチンも測定可能で、貯蔵鉄がどれくらいあるかの目安になります。
その他、筋肉中や酵素などに鉄は分布しています。
1日の鉄の喪失量(=必要量)は僅か1mg
赤血球の寿命は120日程度です。
しかし、寿命を迎えた赤血球の中の鉄は再利用され、失われません。
鉄の喪失は通常ではわずか1mg/日程度で、消化管や皮膚からの細胞脱落によります。
そしてこの1mgを、毎日の食事で補うこととなるのです。
鉄は十二指腸から主に吸収されますが、20mg摂取に対し約1mgが吸収されます。
摂取した全てを取り込んでくれるわけではないのです。
難しく感じた方は、以下のことだけ確認してください。
体内中の鉄の7割は赤血球である。
体内中の鉄の2割は肝臓に貯蔵鉄(フェリチン)として蓄えられている。
1日に必要な鉄摂取量は20mgだが、そのうち吸収されるのは1mgだけ。
鉄欠乏性貧血の原因
上記のバランスが崩れて鉄が不足すると、鉄欠乏性貧血となります。
主に、鉄の摂取不足と、鉄の喪失が挙げられます。
鉄の摂取不足
偏食などに伴う鉄摂取不足を認める場合があります。
また、消化管機能の低下、消化管手術後で吸収障害を起こす場合があります。
鉄の喪失
圧倒的に多い原因が鉄の喪失です。
つまり、血液を失うことです。
体内における鉄のバランスは、かなりぎりぎりの所で成立しています。
そこで僅かでも出血などが起こると、貧血の原因になってしまうことがあります。
血液を失う原因で最も多いのは、女性の月経です。
平均で0.5mg/日の失血を認めます。
過多月経の方は、更に多くの鉄を失っていると思われます。
また、失血ではないのですが、妊娠・授乳期間中も鉄の必要量が増えるので、鉄は不足しがちになります。
その他の原因で重要なのが、不顕性の出血です。
つまり、自分で気づかないうちに身体のどこかから出血が起きているということです。
逆流性食道炎、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、痔核などが多いです。
また、悪性疾患(がん)が見つかることもあります。
鉄欠乏性貧血の症状
貧血による症状として、疲れやすくなる、息切れ、めまい、顔色が悪くなる、動悸がする、などを認めます。
ただしゆっくりと進行した貧血の場合、症状が現れないことも多いです。
これは、身体が貧血状態に慣れてしまっているからです。
しかし無症状でも、心臓などに確実に負担はかかっています。
また、特徴的な症状として、異食症を認めることがあります。
これは、氷や土などを食べたくなる、というものです。
その他に重症の場合、舌炎、口角炎、匙状爪(スプーンネイル)を認めることがあります。
鉄欠乏性貧血の治療
まずは鉄欠乏の原因を突き止めることが大切です。
原因が不明では、治療をしても根本的解決に至りません。
その上で、治療についてお話していきます。
これは、この記事で私が一番お伝えしたかったことでもあります。
鉄欠乏性貧血の治療は必ず長期戦になります。
ヘモグロビンが回復しただけで終了してはいけません!
詳しく見ていきましょう。
鉄欠乏性貧血では、鉄が不足しているのですから鉄を補充します。
補充方法には、食事、お薬の内服、注射、があります。
鉄分の注射(フェジンなど)
注射に関しては便利ではありますが、過剰鉄の問題があります。
鉄は多すぎても体に問題を起こすのです。
食事や内服では、摂取しても全量が吸収される訳ではありません。
しかし注射は直接血管に入りますので、過剰となる危険性があります。
ですから、鉄剤が内服出来ない理由があったり、重篤な貧血で治療を急ぐ場合のみ、使用されます。
鉄剤の内服(フェロミアなど)
病院での治療の中心となるのが、鉄剤の内服治療です。
フェロミアという薬の場合、1錠で50mgの鉄を含んでいます。
通常、1日に2~4錠、つまり100~200mgの鉄を補充することになります。
鉄剤の吸収率は、健康成人で10~20%、鉄欠乏状態では50~60%のようです。
ここで問題となるのが、いつまで治療をするのか、です。
鉄剤の内服を継続していくと、多くの方が1~2か月程度でヘモグロビンが回復します。
これで治療は終了、ではありません。
大まかな目安ですが、ヘモグロビン回復後も半年程度は鉄剤の内服をお勧めします。
これは貯蔵鉄の回復に必要な期間です。
貧血はヘモグロビン→貯蔵鉄(フェリチン)の順番に回復します。
見た目上で貧血が回復していても、貯蓄が無ければすぐにまた貧血状態に戻ってしまうことがあります。
しっかり鉄分を蓄えきって、ようやく治療が終了となります。
つまり血液検査でフェリチンの値が正常化するのが、本当のゴールです。
なお、根本的な失血の原因が改善できない場合があります。
月経の出血が多く、常に鉄が不足状態…という状態などです。
勿論、子宮筋腫など、出血が増える原因となる婦人科系の疾患がある場合は、そちらの治療も検討が必要です。
しかし、そういった病態もなく、純粋に鉄が不足するという場合…。
閉経まで鉄剤を内服し続ける必要があることがあります。
食事・サプリメントによる鉄摂取
先にお話した通り、鉄は食事での吸収率が低いです。
だから食事だけで不足鉄全ての補充は難しいことが多くなります。
しかし、元々の鉄摂取量が少ない方の場合は、少し気を付けるだけで随分と貧血の治療が楽になります。
無理のない範囲で、食事を改善していきましょう。
重要とされるのは以下の点です。
①食事はバランスよく1日3回食べる
②鉄分を多く含む食品の摂取を心がける
レバー、赤身肉、ひじき、あさり、かき、緑黄色野菜、切り干し大根など
③鉄吸収を助けるビタミンCを摂取する
④鉄吸収を阻害する飲料を食事中は避ける
緑茶、紅茶、ウーロン茶、珈琲など
⑤吸収を高める為、よく噛んでゆっくり食べる
ただ、あまり神経質にならず、出来るところから気を付けていくと良いと思います。
この中で一番大切なのは①です。
きちんとバランスの良い食事がとれていれば、鉄不足になることは少ないのです。
その上で、更に鉄分を摂れるように…と考えるのが良いのではないでしょうか。
サプリメントや健康食品による鉄分の摂取も良いと思います。
その場合は、含まれる鉄の量などを確認しましょう。
ただ、貧血がある場合は、経過を見る為に一定期間ごとに病院で採血検査を受け角が望ましいです。
貧血の程度、鉄、フェリチンの数値は、採血しなくては分かりません。
鉄分をうまく摂取する工夫
ちなみに、鉄剤やサプリメント内服において非常に多い訴えが嘔気です。
鉄って金属ですので、胃にたまるというか重たい感じがするのです。
この場合、まず量を減らしてみましょう。
量が多いほど副作用は出やすくなります。
また、眠前の内服で、継続できた方も沢山いらっしゃいます。
要するに、飲んだら後はもう寝るだけ!と、嘔気が出る前に寝てしまうのです。
勿論、病院で治療中の方は、担当の先生に相談してくださいね。
余談ですが、この嘔気を利用してダイエットしようとした同僚がいました。
鉄のサプリメントを内服して、食事量を減らす作戦だったみたいです。
傍から見ていた私が止めようか悩んでいる数日の間に、作戦は中止になりました。
嘔気が強すぎて継続するのが無理だったそうです。
内服鉄剤では鉄過剰が起こることは稀とは言え、良い子も悪い大人も絶対に真似しないようにしましょう…。
まとめ
鉄欠乏性貧血について、お話させて頂きました。
とにかく放置・繰り返し・軽視、されることの多い病気です。
しかし、重篤な疾患が隠れていることもありますし、繰り返せば身体への負担は大きくなっていきます。
軽症の内から確りと対処していくこと。
治療を開始した場合は、長期戦と考えて確実に治すこと。
以上を心がけて頂ければ幸いです。
たかが貧血、されど貧血です。しっかり治療しましょう。
貧血について解説します。鉄分以外にも気を付けたいこと。
健診をしていると、意外と多いのが貧血の患者さまです。
風邪などで体調を崩して病院で血液検査を受けた際にも、偶然貧血が見つかることもありますね。
貧血って言われたけど、全然症状もないし様子を見ていますね。
貧血には鉄分が良いと聞いたので、とにかく鉄分をとります!
症状のない貧血も、放置していると大変なことになることがあります。
また、鉄不足以外にも貧血の原因は色々とあるのです。
今回はそんな貧血について、原因から対処法まで解説していきます。
「貧血」とは何か
基準値
Hb 男性 13.1-16.3 g/dL
女性 12.1-14.5 g/dL
貧血とは、血液中の赤血球の数やヘモグロビン(Hb)の量が低下した状態のことです。
ヘモグロビンとは赤血球にある赤い色素のことで、酸素を運搬する能力があります。
つまり、貧血となると身体中に酸素を上手く運ぶことが出来なくなります。
こうなるとすぐに倒れてしまいそうですが、人間の身体は頑張り屋です。
何とか他の部分で、この酸素の運搬力不足を補おうとします。
全身に血液を巡らせているのは心臓の働きです。
心臓がポンプ、ヘモグロビンがその勢いで運ばれていく台車のようなイメージです。
台車が少なくなれば、ポンプがその分フル稼働して回転率を高めます。
貧血の所為で脈が速くなったり、動悸がしたりするのはこの為です。
要するに、貧血は放置すると気づかぬうちに心臓へ負担をかけていることになります。
なお、今回は詳しく述べませんが、逆にヘモグロビンが多すぎるのも問題となります。
貧血の原因
貧血の原因はさまざまですが、主要なものを以下に挙げてみます。
「材料」不足(主として鉄やビタミン)
材料が不足していると、十分な量の赤血球を作ることが出来ません。
赤血球の主たる成分であるヘモグロビンは、鉄が材料となります。
これが不足すると、いわゆる鉄欠乏性貧血となります。
また、ビタミン(有名なものはビタミンB12や葉酸)も、DNA合成の際に必要で、不足すると完全な赤血球が作れません。
これは巨赤芽球性貧血や、大量飲酒者に認められる貧血です。
出血による喪失
出血が起これば、当然赤血球が喪失されるので貧血となります。
急激な出血なら分かりやすいのですが、じわじわとした出血でも継続すれば貧血となります。
また、女性で月経のある方も定期的に血液を失っていることになります。
赤血球が失われるというのは、鉄分が失われるということでもあります。
純粋な喪失による貧血にもなりますし、継続的な出血は鉄欠乏性貧血も引き起こします。
赤血球がうまく作れない場合
血液は骨髄という場所で作られますが、この骨髄の異常で赤血球がうまく作られないことがあります。
ただ、これは比較的稀な病態です。
もうひとつ、時折見かけるのが、腎性貧血という貧血です。
腎臓は尿を作る臓器という認識の方が多いと思いますが、実は「エリスロポエチン」というホルモンも作っています。
このエリスロポエチンが骨髄へ信号を送って、赤血球が作られるのです。
つまり、腎臓という臓器は、赤血球を作る信号を送るという重要な役割も持っていたのです。
そして腎臓の機能が低下すると、このエリスロポエチンが作られる量も低下します。
これにより引き起こされるのが腎性貧血です。
臓器の機能は加齢に伴い低下していく傾向にあります。
特に高齢の方で、この腎性貧血の方を見かけることがあります。
貧血の種類は大きくわけて三つ
原因別に貧血についてお話しましたが、貧血には血球の大きさによる分類もあります。
血球の大きさとは数字で確認できるもので、これを参考に原因も類推できるのです。
皆さんの血液検査の結果でも、確認できる場合があります。
MCVという項目があるでしょうか。
ここに注目すれば、以下の分類を確認することが出来ます。
小球性低色素性貧血
MCV≦80
小球性、つまり血球が小さいということです。
これは多くの場合が、鉄が足りない鉄欠乏性貧血です。
主たる材料が足りないので小さくしか作れなかった、とイメージしてください。
正球性正色素性貧血
80<MCV<100
これは血球の大きさが正常な場合です。
腎性貧血や、稀な血液疾患などが当てはまります。
また、急な出血後の貧血も正球性になる場合があります。
ただし時間が経過するにつれて鉄不足となりますので、小球性へ移行していきます。
大球性正色素性貧血
MCV≧100
血球が正常よりも大きい場合です。
主にビタミン(特にビタミンB12や葉酸)などが不足した場合に起こります。
血球が大きいと聞くとなんだか通常よりも酸素を運んでくれそうで、良いことなのではと感じる方もいるかもしれません。
しかし、きちんと作れていない赤血球では十分な働きは期待できません。
ビタミン不足でDNAが上手く合成できず、ヘモグロビンを上手く包み込めなかった赤血球、というイメージです。
ビタミンB12欠乏は主に吸収不全によっておこります。
代表的なのが「悪性貧血」です。
これは胃粘膜の萎縮によって、ビタミンB12が吸収できなくなる病態です。
それ以外に、胃の全摘出をおこなった方なども吸収不全に陥ります。
葉酸欠乏の原因は色々とありますが、大酒家の方などがなりやすいです。
極端な偏食や薬剤の影響でも起こる場合があります。
貧血の症状
貧血の症状としては、顔色が悪い、体がだるい、疲れやすい、動悸がする、めまいがする、息切れがする、などが挙げられます。
また、ゆっくりとした経過の場合、無症状のことも多いです。
貧血と指摘されたら大切な二つのこと
貧血を指摘された場合は、病院を受診して診察を受けましょう。
大切なのは、「原因精査」と「治療」の両方をおこなうことです。
貧血の原因精査
月経のある女性の小球性貧血、大酒家の方の大球性貧血、などは原因が分かりやすいです。
しかし、明らかな原因が思い当たらない場合や、急激な貧血が進行している場合は、注意が必要です。
特に原因不明の場合、出血の有無の精査は必要です。
原因として多いのは、上部消化管からの出血、大腸からの出血、婦人科疾患です。
また、場合によっては悪性疾患がみつかることもあります。
必ず病院を受診して、医師に相談してください。
貧血の治療
治療は貧血の原因によって異なりますが、必ず受けましょう。
症状が無いから貧血でも大丈夫、と言うことにはなりません。
人間の身体はよくできているもので、次第に貧血状態に慣れていきます。
ゆっくりと進行した貧血は、自覚症状に乏しい場合もあります。
ただし、無自覚でも確実に臓器に負担はかかっています。
また、その状態で更に何か起こった時、風邪をひいたり、体調不良になったりした場合、致命的な事態になりかねません。
私が診察した患者さまの中で、最も重篤だったのはHb4g/dlの方でした。
胃潰瘍に伴う吐血で入院されていましたが、「少ししんどいかなぁ?」くらいの自覚症状だったのです。
しかし、Hb4g/dlといえば、基準値の1/3です。
単純な比較は出来ないものの、普通の人間が一気に血液を2/3も失ったら、かなり重篤なことになる筈です。
それでもゆっくりならば耐えてしまうのが人間の身体です。
おそらく、この方もじわじわと貧血を進行させていったのでしょう…。
そして吐血という切っ掛けで、漸く異変に気付いたことになります。
ただし、高齢の方や活動量の低下した方の場合、基準値レベルのHbは必要が無いこともあります。
高齢者では貧血の定義を一律Hb 11g/dlとするのが実際的ともいわれていますが、その方の活動量や持病なども考慮して判断していくのが良いのだと思います。
まとめ
今回は貧血について、全般的な解説をさせていただきました。
貧血は繰り返し指摘される方も多く、慣れてしまいやすい異常です。
しかし、可能な限り早めに対処していくことが、重篤な状態となるのを予防することに繋がります。
自己判断せず、病院で医師の判断を仰ぎ、対応していきましょう。
貧血は甘く見ずに、しっかりと精査・治療しましょうね。
定期健康診断について解説します。
今晩は、花芝です。
以前の記事で、「健康診断」と「人間ドック」の違いについて解説しました。
本日はその「健康診断」の中の『定期健康診断』についてお話していきます。
健康診断には種類が複数あり、違いも分かり難くややこしいと思います。
ただ、大多数の方は何らかの健康診断を受ける対象となる筈です。
ご自身の健康の為に受ける検査です。
折角ならば、少しだけ詳しくなって見るのも良いのではないでしょうか。
「健康診断」と「人間ドック」の違いについては、以下の記事をご参照ください。
定期健康診断とは
定期健康診断とは労働安全衛生法により定められた制度です。
事業者に対して、事業者が雇用した労働者が医師による健康診断を受けることを義務づけるものになります。
対象となるのは、事業者が雇用したパートを含む週30時間以上(正規従業員の労働時間4分の3以上)働く労働者です。
つまり第一に、事業者が労働者に健診を受けさせる義務を有しているのですね。
ただし、労働者にも健診を受ける義務がありますので、きちんと健診を受けましょう。
定期健康診断の費用
義務を負うのは事業者ですので、費用も事業者の負担となります。
しかし、後述するメタボ健診などでの代用を行う場合、差額の費用負担が発生する場合があります。
定期健康診断の頻度
「雇入時の健康診断」と、その後1年以内ごとに1回の「定期健康診断」を
行う必要があります。
例外として、特定業務従事者は、当該業務への配置変えの際および半年に1回の定期健康診断が必要です。
特定業務事業者とは、身体に負担のかかりやすい特定の環境で業務を行う方です。
高熱・低温の物体を扱う業務や、異常気圧下における業務など。
深夜業従事者もこれに該当します。
深夜業従事者とは、6ヶ月間を平均して1ヶ月あたり4回以上の深夜業に従事した方です。
詳しくは下記に羅列してみますので、気になる方は参考にしてみてください。
特定業務事業者
①多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
②多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
③ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
④土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
⑤異常気圧下における業務
⑥さく岩機、鋲打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務
⑦重量物の取扱い等重激な業務
⑧ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
⑨ボイラ 製造等強烈な騒音を発する場所における業務
⑩坑内における業務
⑪深夜業を含む業務
⑫水銀、砒素、黄りん、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
⑬鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに
準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
⑭病原体によつて汚染のおそれが著しい業務
⑮その他厚生労働大臣が定める業務
定期健康診断の内容
定期健康診断の項目は以下の通り定められています。
定期健康診断は労働者の方が受ける健診です。
項目は健康な状態で業務に従事できているか、という観点から定められています。
特定健康診査や人間ドックと比較すると、検査項目は少なめです。
メタボ健診で、「定期健康診断」を代用できる?
メタボ健診とは所謂「市の健診」と言われるものです。
正確には「生活習慣病予防健診」「特定健康診査」と言います。
40歳以上の方は多くがこのメタボ健診の対象になります。
メタボ健診は定期健康診断よりも項目数が多く、補助が出るので費用も安く受けることが出来ます。
上記のメタボ健診を、定期健康診断の代用とすることも基本的には可能です。
この場合の費用負担については、事業所との取り決め次第となります。
ただし、それぞれの事業所で細かな規定があることが多いと思います。
不明なことがある場合は、問い合わせて確認しておきましょう。
まとめ
今回は定期健康診断について解説させて頂きました。
何となく、と受けていた健康診断について、少しでも詳しくなって頂けたら幸いです。
健康診断は、多くの方が一年に一度しか受けることがありません。
だからこそ健康を考える大切な機会として、生かしていけると良いですね。
定期健康診断を受けて、元気に働きましょう。
活字のパワーって凄い。「雑誌にこの薬は怖いって書いてた!」
こんばんは、花芝です。
健康診断の時に患者さまとお話していると、よく聞く台詞があります。
雑誌にこの薬は飲んじゃダメって書いてました!
血圧は下げなくても大丈夫って本で読みましたよ。
さあ、私はこれに対してどうやってお返事をしていきましょう。
- 医師の仕事は、皆さんを健康にするお手伝い
- 雑誌や本やwebサイトの明らかな嘘
- どんな人がその文章を書いているのかということ
- 筆者への印象は美化されがち
- 活字そのものにも力があります
- 活字効果が悪用された場合とても厄介
- そうだ私も文章を書こう
- まとめ:手に入れた情報は冷静に判断していこう
医師の仕事は、皆さんを健康にするお手伝い
病気の最終的な治療方針を決めるのは患者さま本人です。
医師はその最大限のお手伝いをするものだと考えています。
そしてそのお手伝いの中には、正しい情報提供も含まれています。
明確な「正解」というものは存在しないのかもしれません。
決定には、それまでの色んな経験、手に入れた知識、感情など様々な要素が絡みます。
例えばお薬で酷い目にあったことがある方は、薬に嫌悪感があるかもしれません。
昔読んだ本に書かれていた内容を、絶対だと信じていることもあるでしょう。
それは全てが否定されるべきものではありません。
ただ、自分の持っている医学的知識と齟齬がある場合は、努めて丁寧に説明を行います。
全てをお話した上で、最終的には患者さまが一番納得する方法を選んでいただければ良いと考えています。
……と、そう考えているのは大前提なのですが。
雑誌や本やwebサイトの明らかな嘘
ご自身の経験が起因する薬への嫌悪感や恐怖感は仕方がないと思うのです。
因果関係が曖昧だったとしても、実体験の印象は強いものです。
しかし雑誌や本の明らかに過剰な表現や、場合に寄っては嘘とも言える内容に影響されている方もいらっしゃるように感じます。
私自身、自分の考えが全て正しいとは思いません。
けれど「これは絶対に違うのでは」という場合も流石にあります。
その情報源が、明らかにいい加減な下準備で書かれた雑誌や本の内容だったとき、とても悔しい思いをするのです。
その雑誌や本を制作した人を密かに恨んだりもします。
最近では、webサイトの一部も含まれますね。
これは多分、自分の仕事を邪魔されているように感じるからなのでしょう。
どんな人がその文章を書いているのかということ
例えば、このブログはどんな人間が書いていると思いますか?
私はアイコンと内科医という立場くらいしか情報を表に出していません。
しかし、それでも何となく想像できたかと思います。
そのイメージが実物に近いか遠いかは分かりません。
ただ、私たちは読んでいる文章の向こう側に、書いている人間の姿を想像することができます。
そしておそらく無意識に、普段から想像しています。
筆者への印象は美化されがち
写真、イラスト、役職、仕事、今の状況など。
何か筆者の情報があればそれに基づき、文章や内容も考慮してこのイメージは出来上がります。
そして大抵の場合、この印象はプラスからスタートしていると思います。
批判目的で読むなどの特殊事例を除いて、悪印象の相手の文章をわざわざ読む人は少ないでしょうから…。
自分の中で良い方に、筆者を美化して想像してしまいやすいんですね。
薬の内容を書いてあるのなら、権威ある先生のありがたい言葉のように感じます。
ほのぼの日記なら、優しくて温かそうな人が書いている姿を想像します。
活字そのものにも力があります
「活字」そのものが持つパワーもあると思います。
整然と並んだ活字には、何となく頷きたくなる力があるのです。
学校で教科書を使って勉強をしてきたときの擦りこみでしょうか。
それ自体は、悪いことでは決してないとは思います。
悪用されるので、ないのならば。
活字効果が悪用された場合とても厄介
問題なのは、この文章や文字が持つ力を悪用されたときです。
よくある手法のひとつは、薬の悪い副作用のみに着目し、そこを誇大化して批判する方法でしょうか。
薬は色んな作用を持っていて、望ましくない悪い副作用を含む場合もあります。
だから私も、必要のない薬はのむべきではないと考えています。
ただ、大切なのは作用と悪い副作用を天秤にかけて、どちらの方が優先すべきかを判断することです。
悪い副作用のみを取り上げ、羅列し、こんな風になるからこの薬は毒だ、と断じるのでは一方向からしか物事を見られていません。
もっとも、この手の本や雑誌の多くは、わざとこういったスタイルをとっているのだとは思います。
注目も得られるでしょうし、一定の割合で信じる方もいるでしょうから、何らかの利益があるのかと思います。
そうだ私も文章を書こう
明らかに活字の力を悪用した雑誌や本の内容に影響された患者さまと相対した場合、 真摯に説明をすれば伝わることもあったし、駄目だったこともありました。
外来の患者さまとは信頼関係を築きつつ、お話を進めていくことが出来ます。
しかし健診医は、患者さまとお話できる機会は多くて一年に一回。
下手をすれば一生で一回だったりします。
その短時間で、これまでその方が積み上げてきた信念のような想いに切り込むのは、やはり難しい場合もあるのです。
例えばステロイドに不信感を持っていたある患者さまは、私が「ステロイド」という言葉を口にしただけで顔を強張らせたのが分かりました。
その方の心がみるみる閉ざされていくのを感じました。
こうなってしまうと、短時間でお話をするのはかなり困難です。
そして私は思いました。
こうなったら、こちらも活字で対抗するしかないと。
折角、誰もがこうして情報発信が出来る時代です。
私の考えが正しいかは分かりませんが、少なくとも自分が正しいと思うことを発信していきたいと考えています。
まとめ:手に入れた情報は冷静に判断していこう
本や雑誌には、明らかに意図的に極端な内容(特定の薬を悪くいうなど)が書かれていることもあります。
それが正しいのか否か、すぐに判断するのは難しいことも多い筈です。
大切なのは自分で色々と調べてみることだと思います。
その上で冷静に内容を見極めていきましょう。
悩んだら身近な人に相談してみるのも一つの手ですよ。
新型コロナウイルスとかPCR検査とか諸々まとめ
連日、新型コロナウイルス(COVID-19)に関する報道が繰り返されています。
テレビ、ネット、雑誌などで色んな情報が飛び交っていて、なかなか混乱は収まりそうにありません。
花芝は平々凡々な内科医ですので、一般の方が入手されているのと同じ程度の情報しか持っていません。
しかし最近、とても頻繁に病院で聞かれるのです。
先生、コロナウイルスって正直やばいんでしょうか?
本気で心配されている方から、世間話感覚の方まで、さまざまですが…。
今日は自分の備忘録の意味も込めて、現時点での情報を整理しておきたいと思います。
- 新型コロナウイルスとは
- 新型コロナウイルスの症状
- 新型コロナウイルスのPCR検査
- PCR検査の偽陰性・偽陽性、検査前確率の問題
- 検査が必要なのは、その検査で次の行動が変わるときだけ
- 新型コロナウイルスの診断
- 新型コロナウイルスの感染の仕方
- スーパースプレッダー
- 新型コロナウイルスの治療
- 新型コロナウイルスの致死率
- 新型コロナウイルスの感染予防
- まとめ:新型コロナウイルスに適切に対応していきましょう
新型コロナウイルスとは
コロナウイルスは、王冠のようなスパイクのある外見のウイルスです。
現在までに7種類が発見されています。
そのうち4種類はいわゆる風邪を引き起こす通常型ヒトコロナウイルスです。
残りがより病原性の強いもので、以下の3種類です。
新型コロナウイルスは、遺伝子学的にはSARS-CoVの近縁のようです。
2019年の12月より中国の武漢で感染の流行が始まりました。
新型コロナウイルスの症状
ウイルスが何処に感染するかによって症状が異なります。
しかし、概ね呼吸器症状のようです。
具体的には、発熱、咳、筋肉痛、倦怠感、呼吸困難など。
また、頭痛、喀痰、血痰、下痢などを伴う例もあります。
「これがあったら新型コロナです」という特徴的な症状はありません。
一般的な風邪やインフルエンザ、肺炎の症状とほぼ同じということです。
死亡例では肺炎が重篤化したり、敗血症(※)が起きていると考えられます。
※敗血症:感染が原因で全身に炎症が起こり多臓器障害などがおこること
また、感染していても全員が発症する訳ではなく、無症状のままの方もいます。
新型コロナウイルスのPCR検査
上記のように、症状だけでは新型コロナウイルスを診断することが出来ません。
そこで話題になっているのが、PCR検査ですね。
PCR検査とは、とても簡単に説明すると、特定の遺伝子を増幅させて、目で見えるような状態に細工して検出する方法です。
今回の場合だと、患者さまの検体にある新型コロナウイルスに特徴的な遺伝子を増幅させて、その有無をチェックすることになります。
PCR検査は1件終了するまでに5時間はかかり、同時進行で行うにも限度があります。
つまり、インフルエンザの迅速検査のように、ばしばし行える検査ではないのです。
また、当然ほかの病気のPCR検査などもある訳ですから、通常診療にも支障をきたさないようにしなくてはいけません。
PCR検査の偽陰性・偽陽性、検査前確率の問題
更に一つ考えておかなくてはいけないのが、偽陰性、偽陽性の問題です。
どんなに素晴らしい検査でも、一定の確率で間違いが生じます。
例えば、さきほど名前を出したインフルエンザの迅速検査にも偽陰性、偽陽性はあります。
その検査がどの程度信頼できるのかは、さまざまな要因が関係します。
具体的には、たとえば以下の三つです。
感度:病気がある人に対して、陽性と判断された人の割合
特異度:病気がない人に対して、陰性と判断された人の割合
検査前確率:検査前、どれくらいその病気の可能性があるか
感度が高ければ、病気を持つ人を殆ど見逃すことなく陽性判定できます。
特異度が高ければ、陰性判定が出た時には殆どその病気ではないと判断できます。
ちなみにインフルエンザ迅速検査は感度60%程度、特異度95%以上です。
つまり、陽性と出ればほぼ間違いなくインフルエンザだけど、陰性でも油断は出来ない…ということになります。
これに更に関与してくるのが検査前確率です。
その集団での有病率、とも言いかえることが出来ます。
ざっくり言うと、検査前確率が低いと同じ検査でも偽陽性が増えます。
その病気らしくない人、可能性が低そうな人を検査すると、陽性が出ても信頼度が落ちると言うことです。
健康な人ばかり纏めて連れて来て検査をしたとしても、検査にはどうしても偽陽性が生じてしまうので、その割合が目立ってしまうのです。
検査が必要なのは、その検査で次の行動が変わるときだけ
新型コロナウイルスの話にやっと戻ってきます。
私は検査が必要なのは、その検査で次の行動が変わるときだけだと思っています。
患者さんとの濃厚接触はあるけど症状は今のところない…という方は、最大潜伏期間と思われる14日間は他の方への感染に気を付けなくてはいけません。ある時点でPCR検査陰性だったとしてもです。行動が変わらないので、この時点では検査を受ける意義はあまりないのかもしれません。
不安で検査を受けたい、というお気持ちもとても分かります。
しかし最新の検査だったとしても、陰性が出たら無罪放免、陽性なら絶対病気、という単純なものでもないのです。
お一人お一人の症状や感染者との接触度など、色々な要素を踏まえて、検査の必要性を含めた判断が求められるのだと思います。
なお、新型コロナウイルスのPCR検査の感度と特異度はまだ分かっていません。
PCR検査ですので、おそらく悪くない数字にはなると思います。
新型コロナウイルスの診断
呼吸器症状を認めた場合、他の病気の鑑別がとても大切です。
インフルエンザ、他の細菌感染症などの鑑別検査や、肺炎の有無を確かめる胸部レントゲン検査やCT検査などを行います。
PCR検査の対象となります。
PCR陽性が出たら、確定診断となります。
※濃厚接触者:新型コロナウイルス感染症が疑われるものと同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があったもの
新型コロナウイルスの感染の仕方
・飛沫感染
感染者の飛沫(くしゃみ、咳、つば)と一緒にウイルスが放出されます。
他者がそのウイルスを、口や鼻から吸い込んで感染します。
・接触感染
感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後、その手で周りに触れるとウイルスが付きます。
他者がその物を触るとウイルスが手に付着し、その手で口や鼻を触って粘膜から感染します。
新型コロナウイルスは空気感染をするのではないか、という情報もありました。
ただ、これは通常の空気感染とは少し違うようです。
現時点での情報では、気道吸引や気管挿管などの処置の際にエアロゾルが発生して感染を起こすことがある、ということのようです。
今後の情報にも注意は必要ですが、今は上記二つの感染経路を注意していくのが大切だと思います。
潜伏期間は明確には判明していませんが最長で14日間と考えられます。
5-6日と考えている研究機関が多いですが、余裕を持って設定されています。
無症状のウイルス保持者からも感染は起こります。
ただ、一般的な感染症では有症状の方からの方が感染しやすいです。
新型コロナウイルスにこの法則が当て嵌まるかはまだ不明です。
しかし咳や痰やくしゃみで感染すると考えれば、ある程度は準拠すると思います。
スーパースプレッダー
SARSのときに少し話題となったので、覚えている方もいらっしゃるでしょう。
一人で多くの人に感染を広げてしまう方をスーパースプレッダーと言います。
新型コロナウイルスは一人の感染者から2-3人に感染するようです。
しかし、一人で10人以上への感染を引き起こした方が報告されています。
スーパースプレッダーの特徴などは分かっていませんが、自分がそうならないように「病気をうつさない為の感染対策」もとても大切です。
新型コロナウイルスの治療
現時点では新型コロナウイルスそのものへの治療薬はありません。
呼吸不全には酸素投与や人工呼吸を行うなど、対症療法を行いつつ回復を待つことになります。
ただ、2020年2月21日の発表で、WHOがエイズなど他の病気の治療薬を用いた臨床試験を行い、3週間以内に結果が判明するとありました。
結果次第では、状況も好転していくと思います。
新型コロナウイルスの致死率
中国でのデータが公表されています。
症例7万2314件のうち、感染が確認された(症状がありPCR陽性)のは4万4672件。
そのうちの死亡数が1023人。
割り算をして、致死率2.3%と出ています。
内訳は高齢者や基礎疾患のある方の致死率が高かったようです。
子供や若い方は殆ど亡くなっていません。
全体の重症度では、
軽症が80.9%
重い肺炎や呼吸困難など重症は13.8%
呼吸不全や敗血症、多臓器不全など重篤な症状だったのは4.7%
となっています。
また、中国湖北省以外の地域での致死率は0.4%だったようです。
これは湖北省では患者数急増に伴い医療対応が十分に出来なかったこと、それに伴い重症患者が増えてしまったことなどが原因と推測されます。
日本について計算してみます。
データが纏まっていないので、間違っていたらすみません。
チャーター便とクルーズ船の事例も全て含めるとして、
患者数(69+10+306)= 385
うち、死亡数が3なので、3÷385×100 = 0.78%
※クルーズ船の症例を日本の発生件数に含めるのは正しくないかもしれませんが、今回は含めて計算しました。
単純にこの数字だけを見て、何かを結論付けるのは難しいです。
ただ、SARSの致死率が9.6%、MERSの致死率が35%ですので、それよりは低い数字です。
しかし新型コロナウイルスは特に高齢者の方に猛威を振るいます。
日本は高齢の方が多い人口比率ですので、気を付けなくてはいけません。
新型コロナウイルスの感染予防
基本はマスクの着用、手指衛生の徹底です。
マスクの着用は、咳やくしゃみによる飛沫と、そこに含まれるウイルスの飛散を防ぐ効果が高いです。
マスクは自分の防衛よりも、他人を感染させない為の効果が強いのです。
ただ、うっかり鼻や口を手で触るのは防がれるので、多少の自衛(接触感染対策)にはなります。
手指衛生の基本は手洗いです。
流水と石鹸でしっかりと磨きましょう。
手洗い後のアルコール消毒も有効です。
多すぎるかな、という位の量を指に確り乾くまで擦りこむのが良いです。
まとめ:新型コロナウイルスに適切に対応していきましょう
まとめながら思ったのですが、やはりかなり情報が散らかっていますね。
感染者数のデータなども頑張って探せば見つかるのですが、もう少し分かりやすく提示してあっても良いのかなと思いました。
(と言いつつ、読み間違えなどあったら申し訳ないです)
既に日本国内の色んな地域でも、新型コロナウイルスの感染が確認されています。
ただ、重症化している症例がとても多い訳でもないようです。
過剰に怖がり過ぎても、過剰に油断してもいけない状況です。
病気を怖れすぎてパニックになることなく、しかし油断せず感染を拡大させない為の対策を地道に行っていくことが大切なのではないでしょうか。
少しでも参考になれば幸いです。
胃カメラ検査(上部消化管内視鏡)について解説します。
胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)は様々な理由で行われています。
・健康診断で
・胃バリウムでの異常指摘後の精密検査の為に
・胃部不快感の原因を調べるために
花芝は健診でも胃カメラの検査をお勧めしているのですが、胃カメラに何となく怖い印象を抱いている方も多いと思います。
胃カメラは凄く苦しいって聞いたことがあるし、受けたくないです。
麻酔で寝ている状態でも出来ると聞いたのですが。
今日は胃カメラについて、具体的に解説していきます。
知識が増えれば怖くなくなるかもしれませんよ!
胃カメラとは
胃カメラ検査では、黒くて長いホースのようなカメラを、口または鼻から胃の方へと挿入していきます。
カメラの直径は、経口内視鏡(口から)で10-7mm。
経鼻内視鏡(鼻から)で5-6mmです。
胃カメラとは、上部消化管内視鏡検査のことです。
上部消化管とは食道・胃・十二指腸を指します。
内視鏡とは、人体の内部を見る為のカメラのことです。
つまり胃カメラは、口から細長いホースのようなカメラを挿入し、食道・胃・十二指腸の粘膜を観察する検査のことです。
ちなみに口から食道までの通り道である喉も観察できます。
しかし、胃カメラで一番苦しいのは喉を通るときなのです。
だから喉の辺りを直径10mmくらいあるカメラがうろうろしていると、とてもしんどいです。
喉の詳細観察は、耳鼻科での経鼻内視鏡検査がお勧めです。
胃まで挿入する必要のないカメラなので、直径はかなり細く3㎜程度です。
胃カメラのスケジュール
では、具体的なスケジュールを見てみましょう。
ここでは一般的な傾向内視鏡検査についてご説明します。
①前日
胃カメラでは胃の内部を観察するので、胃を空っぽにする必要があります。
そのため、前日の21時以降は食事をとるのは止めましょう。
水・お茶・スポーツドリンクなどの摂取は構いません。
脱水になってはいけないので、水分はきちんととりましょう。
※上記以外の水分(牛乳・スープなど)は、胃に残りやすい場合もあり避けた方が無難だと思います。
②当日(朝)
水分は朝7時以降は止めておきましょう。
検査中、水分が胃に沢山あると気持ち悪くなることがあります。
定期の内服薬がある場合、基本的には朝のお水と一緒に内服して構いません。
ただし、出来るだけかかりつけの先生の指示を仰ぎましょう。
特に糖尿病のお薬などは、注意が必要です。
(絶食状態でお薬を飲むと、血糖が下がり過ぎることがあるからです)
③当日(検査前)
・まず、ガスコン水というシロップ状の白い液体を内服します。
これは消泡剤というもので、胃や腸のガスを排出し、胃カメラでの観察を助ける作用があります。
・次にのどの麻酔を行います。カメラ通過時の苦痛を和らげるものです。
麻酔と言っても、怖いことはおこないません。
麻酔薬の入ったスプレーを喉に数回振りかける方法が一般的です。
具体的には喉に5回程度スプレーを吹きかけ、30秒我慢してから飲み込みます。
・鎮痙剤の投与が行われる場合もあります。
これは、消化管の蠕動(うごき)や消化液の分泌をおさえて、胃カメラの観察を助ける作用があります。
ブスコパンの筋肉注射、グルカゴンの筋肉注射を使用することが多いです。
ただし、それぞれ禁忌(使ってはいけない病気)があります。
ブスコパンの禁忌は出血性大腸炎、緑内障、前立腺肥大、重篤な心疾患、麻痺性イレウスと、意外と多いです。
グルカゴンの禁忌は、褐色細胞腫で、こちらは稀です。
また、どちらの薬も使用後は、当日の車の運転などは控えましょう。
④当日(検査本番!)
いよいよ本番です。検査室に移動して、左を下にしてベッドに横になります。
マウスピースを咥えれば準備完了です。
あとは胃カメラが挿入され、検査開始となります。
検査中はできるだけリラックスするように心がけましょう。
検査中は目を開けている方が実は楽ですよ。
⑤当日(検査後)
検査後、喉麻酔が効いている内は飲食できません。
理由はむせてしまうからです。
また、組織の検査などを行った方も暫くは飲食を控えましょう。
具体的には1-2時間程度になりますが、病院で確認しましょう。
御疲れ様でした!
胃カメラの種類
経口内視鏡と経鼻内視鏡
胃カメラには口から入れる経口内視鏡と、鼻から入れる経鼻内視鏡があります。
両者の違いは以下のようになります。
・経口内視鏡
太め(直径10-7㎜)
喉を通るときに咽頭反射がおこりやすい(「おえっ」となり苦しい)
画像が奇麗で詳しく観察できる
・経鼻内視鏡
細め(直径6-5㎜)
経路的に咽頭反射が起こり難い(苦しくない可能性が高い)
画質が経口内視鏡よりは悪くなってしまう
鼻が痛くなったり、ときどき挿入不可能な場合がある
要するに、
経口内視鏡は少し苦しいけどよく観察できる。
経鼻内視鏡は楽な可能性が高いけど観察精度はやや落ちる。
ということになります。
自分にとってどちらの方が良さそうか、よく考えて選択しましょう。
個人的には、検査は観察する為のものなので経口をお勧めします。
ただ、咽頭反射が強くて口からはどうしても無理…という方などは、経鼻に挑戦してみるのも良いのかなと思います。
鎮静薬使用の有無
一般的に「麻酔をして胃カメラをする」「寝ながら胃カメラをする」というのは、この鎮静薬の使用を指しているのだと思います。
先に説明した喉の麻酔、とは関係ありません。
点滴や注射によって鎮静薬を投与し、うとうとした状態を作ります。
検査中の記憶も残らない場合が殆どです。
うとうとしたまま胃カメラを行うので、苦痛が少なくなります。
ただし、鎮静薬は効き過ぎると呼吸抑制や血圧低下を招きます。
特に持病があったり高齢者の方は注意が必要です。
また、鎮静薬を使用した日は車の運転は出来ません。
鎮静薬の種類は多く、医療機関により使用する薬剤はさまざまです。
よくみかけるのは以下のお薬などです。
・ドルミカム(ミダゾラム)
ベンゾジアゼピン系の催眠鎮静薬
最初に一定量を注射し、その後必要に応じて追加投与していく
追加しすぎると、薬が効き過ぎることがある
覚醒を促すアネキセート(フルマゼニル)という薬があり、検査終了時に投与する
検査後のしっかりした覚醒までは30分程度かかることもある
・ディプリパン(プロポフォール)
静脈麻酔薬
少量持続投与していく(一度に注射するのではなく、持続的に薬剤を投与する)
検査終了時に持続投与を終了する
かかりやすく醒めやすい麻酔と言われており、覚醒ははやい
全身麻酔に使用される薬であり扱いには注意が必要
使用量を最低限にする為にも鎮痛薬と併用する
鎮静薬を使用した胃カメラの検査は、圧倒的に苦痛は少ないです。
ただし、薬の効き過ぎや副作用のリスクはあります。
その辺りを理解した上で、検査の選択をして頂ければと思います。
個人的には、特に必要が無ければ鎮静薬無しでの検査の方が良いかと思います。
しかし検査の不安や不快感が強い方は、検討しても良いでしょう。
胃カメラがトラウマになってもう二度と受けない…となるよりは、鎮静薬を使用してでも継続して検査を受けた方が確実に良いと思うからです。
まとめ:胃カメラって大変だけど良い検査ですよ
今回は胃カメラについて説明させて頂きました。
全体の流れを見て、何となくでも印象をつかんでいただけたら幸いです。
胃カメラはしんどい検査であることは間違いありません。
ただ、選択次第では随分と楽に受けることも出来ます。
怖くて受けられない…という方も、一度医療機関に相談していただければと思います。
少しでも不安がとれて、皆さんが胃カメラを受けやすくなりますように。